ハイパーサーミア治療の理論と歴史

がんは正常細胞から異常分化した細胞である為に、現存する全てのがん治療の基本は正常細胞とがん細胞の性質の差を移用して攻撃する事です。ハイパーサーミアは、がん組織の熱調節機能は正常組織のようにしっかり働かない、という弱点を利用した治療です。

なお、治療の際に照射する遠赤外線は体温を上げるエネルギーとして利用されており、遠赤外線が腫瘍に直接届いて抗がん効果を得る訳ではありません。

正常の体温調節機能

我々、恒温動物は外気温度の変化に対して、体温を一定にする強力な調節機能を持っています。 下のCGのように、体温は寒いときに体を丸めて体表面積を小さくしたり、暑いときに汗をかいて体表面を冷却するなど様々な反応により守られています。 この温度は非常に厳密に守られており中枢温度を呼ばれ、直腸や食道などの温度に代表されます。 もし、この温度が下がると全ての生体反応が低下してしまいます。 ”体温が低くて”という方の大部分は末梢温度は確かに低いのですが中枢の温度は下がっていないのです。

四肢の末梢血管は寒い時には収縮し、中枢からきた暖かい動脈血から熱が外に失われないように、下の図のような動脈:静脈の短絡路を開きます。 その結果、皮膚の毛細血管には血流は届かず手足や耳や鼻などは外気温に近く冷たくなります。 食事が採れなかったり慢性の疾患で消耗し熱エネルギーが不足したり、ストレスで交感神経が優位になっても、同様の末梢循環 不全が起こります。 全身ハイパーサーミアで体調が劇的に良くなったと自覚される方の場合、腫瘍の影響というより、むしろ末梢循環不全が解消した事に関連があるようです。

腫瘍組織の温度調節

写真はカテーテル検査の際に造影剤を流した瞬間です。

ちょうど樹木の枝のような正常血管は最少の毛細血管の内径でも100ミクロンくらいあるので、温度が上がると拡張して温度維持機能が働きます。しかしモワーと黒く写っている腫瘍組織の血管網は細く幼弱で温度調節機能もないのです。

カテーテルでの塞栓療法(血管内療法)は、これを利用して塞栓物質などを注入するのですが、ハイパーサーミアでも、腫瘍組織の血管の温度調節が出来ないという機能的な弱点を利用します。

実験的にがん細胞のみを加温すると細胞はダメージを受けますが全て死滅する訳ではありません。

ハイパーサーミアは、がん細胞単独の性質だけでなく、こういったがん組織全体の弱点を利用する治療です。

ハイパーサーミア治療の歴史

古くは温泉浴や発熱物質注入などが試みられましたが、39℃以上の体温を得るのは大変でした。

1980年代になって体外に血液を出して加温する体外循環法が可能となり医学的な研究や成果が多く報告されましたが、外に出した血小板やリンパ球などの血球障害に起因する副作用が強く普及には至りませんでした。

ルーククリニックでは、それらの副作用がない遠赤外線の体外照射による全身加温装置を使用しています。